苦塩日記

苦くてしょっぱくて毎日書かない日記です

ドリル攻防戦

私は長年電車通勤をしている。
通勤時間は片道で1時間強。

大昔の新入社員の頃はまだ、違う路線の直通電車がなく、乗り換えを入れると片道1時間30分をかけて通勤していた。

それだけ自宅と会社の距離があったので、会社の飲み会で終電を逃しタクシーで帰宅をすると、12,000円はかかった。
それでも毎晩のように飲んで、タクシーで帰宅して、朝起きて1時間30分かけて通勤していたのだから、若いって凄い。そして無謀。馬鹿過ぎる。

今現在カードのリボ払いで毎月ヒイヒイ苦しんでいるのは、この頃の毎日のタクシー代が少なからず影響していると思われる。それぐらいタクシーを使いまくっていた。
昔の自分に会えるなら、持っているクレジットカード全部を奪って、問答無用でシュレッダーにぶち込んでやる。絶対に。
クレジットカードは楽しい地獄の入口だ。

ということで、お金も元気も無くなったアラフィフの今は、飲みに行ってもできれば休前日で、そして絶対に電車で帰る、という生活を送っている。

どっちにしろコロナ後、深夜まで営業をしているお店がぐんと減ったので、閉店まで粘ったとしても、かなり健全な時間にお店を出ることになる。
後は私の周囲の人間も私と同様、順調に老いて気力体力が減退し、さっと飲んでさっと話してさっと帰る、効率重視の飲み方をするようになった。
 
話が逸れたが、電車である。
一時期の閑散とした様子がもう、嘘のような盛況ぶりだ。
私の今の勤務先は始業時間が遅いので少しは空いているが、それでも通勤特急なんかは、みっちりすしが詰まっている。

大昔に読んで、忘れられない漫画がある。ギャグ漫画だった。
謎の怪獣が襲来し、満員電車を襲う。満員電車をポキっと折って、車両ごと火にくべる。しばらく焼いてから皮(電車)を剥がすと、ぎゅっと詰まった人間がいい感じにくっついて焼き上がっており、そうして食べる時はトウキビの粒みたいにほろほろとほぐれて、とても美味い、と怪獣はグルメレポートする。

この漫画が忘れられなくて、満員電車を見ると時折、思い出すのだ。
このストーリーをいつだったか、知り合いに話したら、私の情景描写が下手過ぎ又は過剰に表現し過ぎたかで、ただ引かれただけだった。
あれを食べていた怪獣は、とてもいい笑顔だった覚えがある。

今朝の通勤電車にて、隣に座った紳士に肘で小突かれ捲った私は、ああ、あの怪獣が襲ってこないかなあ、と思った。

その紳士はどうも、肘マウントに命を燃やしているらしく、空いた隣の席に座るやいなや、力一杯、肘を張り出して小突いてきたので、ウトウトしていた私はびっくりして目が覚めた。

私はデブで高身長で身体が大きいので、電車で座る時、両肘は身体の内側の格納し、なるべく縮まるようにしている。
というか、そのほうが楽なのだ。
鞄を抱えて、その上に肘をのせるようにしているので、両隣に肘鉄を喰らわせることは殆どない。
 
結構そういう人は稀だったりして、なんとなく見る限り、ナチュラルに両肘を放り出して座っている人は多い。
その体勢が楽なんだろうから、不快感を与えない限り、別にそれはそれでいいと思う。
 
肘マウント。
これはよくわからない。わからないけれど、肘マウントを取ってくる人は沢山いる。
両肘を絶対に放り出し、楽な姿勢に俺はなる、なのか。
近付くんじゃねえと威嚇する孔雀の羽根の気持ちか、肘の分、僕のアタシの陣地を広げて勝利の気分を味わいたいのか。。全然気持ちがわからない。
 
人間って電車に乗った途端、いつもの10倍パーソナルスペースに拘りだす生き物だと思う。
誰か研究をしていないものか。
 
しかし今朝の紳士は、どれにも当てはまらなさそうだった。
明確な悪意を持って、ドリルのように私の脂肪たっぷりの横腹を小突いてきたのである。
それはただただ虫の居所が悪くて、触るもの皆傷つける思春期のようだった。
 
少しの攻防の後、ガラスの50歳の私はドリル攻撃に辟易し、早々に席を立って避難をした。
私の反対隣には可愛い若い女性が座っていて、離れて眺めていたところ、果敢に理不尽なドリル紳士と戦いを続けていた。
私の座ってた席には誰も座らず、周囲はその紳士の異様な思春期を、チラ見するのみだ。
 
可愛い女子の戦いを眺めながら、ああ、怪獣こないかなぁと思った。
まあきたらきたで、可愛い女子も私も食べられてしまうのだが、ドリルジジイが駆除できるなら、それでもいいな。
でもそんなに満員の電車のではないから、私達はちゃんと、ほろほろの美味しいスナックに焼き上がるだろうか。
 
などと朝からどうでもいい事を考えている間に降車駅についてしまったので、ドリルと可愛い子ちゃんの勝負の行方はいざ知らず、である。

しかしこの漫画、なんだったか何に掲載されていたか、全然覚えていないのだ。
榎本俊二の「GOLDEN LUCKY」だったような気がするが、全然違うかもしれない。
もし分かる人がいたら教えていただきたいものだ。
 
あの紳士は、両隣が若い女子と愚鈍そうなおばさんでなくても、肘ドリルを繰り出したのだろうか。
きっと棚橋とオカダだったら大人しく挟まれてるんだろうな。
そう考えるとちょっと悔しい。